常懐悲感1 「苔の衣」
散歩が趣味で、その日は休日だったのでさらに足をのばし、
埼玉の近くまで歩いた。
この界隈では有名な寺があり、寄ってみることにする。
大仏で知られているのだが、私の目を引いたのは、
参拝者が購入しておいていくのであろう小さな仏だった。
実際には仏ではなく、菩薩、地蔵菩薩であろうか。
買った人がお供えしていくのだろうが、
その中に緑の苔の衣を
まとった像がある。
いや、そもそも苔の衣を着せたのではなく、
亡くなった人への供養のために
着せておいた布が古くなり、
さらにそこに苔が生えた状態になったと見える。
亡くなったのはお子さんであろうか。
苔の衣。
後で辞書を引いてみると、
苔の衣、という言葉じたいは僧衣を指すものであるらしい。
そう言えば、僧正遍照の歌にもあったはずだ。
苔の衣に変じたとあれば、
僧の衣を身にまとい、
お子さんは成仏されたのであろうか。
また、苔のむすまで供えておかれたということは、
その永い年月を物語る。
御両親の悲しみは減じはしないだろうが、
それでも、年月がいくらかは
和らげてくれたのではなかろうかとは思われる。
私は納得したような気分になり、
自分の虚仮の衣、
粗末な肉体をひきずって
寺を出た。
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