常懐悲感15「墓碑2」
アテネの国立考古博物館では
不思議な経験をした。
墓碑を集めた部屋で
ひとつひとつを観ていると
いつのまにか
私ひとりになっていた。
ほかの観光客は
他の部屋へ行ってしまい
博物館員は椅子の上で
眠っている。
ひとりで墓碑を観ていると
地の底からのような
腹に響くような
音が聞こえてくる。
おそらく
他の部屋の訪問客の声が
いくつもの部屋を通って
海のざわめきのように
地の轟きのように
聞こえてきたものと思われるが
いろいろな部屋からの
集合された音のためか
人の声とは聞こえず
動物の鳴き声とも聞こえず
この世の声とは
思えない。
その音に包まれて
墓碑を観ていると
異次元の
死者たちの
声を聞いているかのようである。
しかし
恐怖感はなく
ある種の共感を感じていた。
われわれは
等しく
死す者
つまり
モータルである。
死者は
かつての生者であり
生者は
いずれ
死者となる。
そこに
何の違いがあるのか。
ただ
時間の隔てが
あるだけである。
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